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新生・ぬのや旅館が一歩ずつ 松本の老舗が事業承継して1年

昔ながらの木造建築の良さを生かしたぬのや旅館と出迎えの塩見さん

 松本市の中心市街地、中町通りに立つ老舗ぬのや旅館(中央3)が"再出発"して5月で1年がたつ。創業百数十年の歴史を誇りつつ、高齢化により後継を探していた前経営者に代わって、安曇野市の塩見透さん(53)が事業承継。館内の改修を順次進めており、今月には新たな朝食サービスや蔵の一棟貸しも始まる。「古い建物を次の代に受け渡すためにも、ビジネスとして成り立つことを証明したい」との思いからだ。

 市内でも珍しくなった木造3階建ての本館と、離れ、蔵からなる。いずれも築90~100年ほど。間口が狭く、奥行きが40メートル近くある町屋造りと調度品や建具をできる限り生かしながら、各室にシャワールームとトイレを設けるなど利便性を高めた。15部屋ほどあった客室は全7室に整備し、和洋折衷の和風ホテルに生まれ変わらせた。
 塩見さんは神戸市出身。信州大学農学部を卒業後、30代で信州に戻り、外資系企業に勤めながら北安曇郡白馬村でも宿泊施設を営む。ぬのやのような老舗は初めてだが、早くも多くの外国人観光客に利用され「歴史や文化に親しんでもらう機会になっている」と手応えを話す。
 リニューアル後も改修や再整備を継続し、今月には宿泊客以外も利用できる朝食店「TEA TOTIN(ティートタン)」(午前7~10時)が本オープンする。店主の山内ゆかりさん(54)は「食文化を介して訪れた人たちに交流が生まれれば」と願っていた。
 館内からは近隣の蔵造りの建物が四方に望める。塩見さんは「一軒一軒の維持は街並みの維持にもつながる。地域の財産として大切にしていきたい」と話している。