連載・特集

2025.3.30 みすず野

  霧やちりに遮られ、かすんで見える春の月のおぼろ月。こうこうと輝く月も美しいが控えめに照る月も風情があっていい。夜空を優しく照らす月光は時代を超えて人の心を揺さぶるようだ◆松本市笹賀の万葉集研究家・上條守さん(78)の著書をひもといた。選歌の中に、天平文化を代表する歌人・大伴家持の正妻とされる坂上大嬢の「春日山霞たなびき心ぐく照れる月夜にひとりかも寝む」があった。歌を贈られた家持は「月夜には門に出で立ち夕占問ひ足占をぞせし行かまくを欲り」と応えた◆歌の解説を見る。大嬢は、ぼんやりと照る月夜に私は独り寂しく寝ることでしょうか│と切なく問うている。受けて家持は月夜の晩は家の門に出て、夕占いや足占いをした。あなたの所へ行きたくて│。夕占いは道行く人の言葉を聞いての吉凶占い。足占いは歩いて左右どちらの足で目標に着くかでの吉凶占い│と教わる◆麻績村に、村が「本来、姨捨山の月とはこの地から見た月をいう」とうたう「姨捨山冠着宮遙拝所」の碑が立つ。遙拝所とは遠くから拝む場所のこと。昔の人々を魅了した月を拝んで当時に思いをはせるのもロマンがある。