連載・特集

2025.3.13 みすず野

 江戸幕府の制度や役人の執務状況などを、明治時代の歴史学者たちが聞き取りまとめた『旧事諮問録 江戸幕府役人の証言上・下』(旧事諮問会編、岩波文庫)は、一級の歴史資料とされ、時代小説の種本としても知られる◆この中に時代劇でしばしば登場する「山吹色の菓子」の話が出てくる。山吹色は金銭を指す隠語で、おなじみの小判が入った菓子折などを思い浮かべる。「お主も悪じゃのう」というあれだ◆12代将軍徳川家慶の時代に、大奥で絶大な権力を振るった姉小路という奥女中の元には「御大名から菓子折が来たということです。その菓子折の中に、金が填充(いっぱい)に這入っていたということでございます」という証言がある。将軍へのさまざまな影響力を期待して、このような工作が行われていたようだ◆卒業、入学、転勤、退職など菓子折が行き交う春。残念なことに山吹色の折はまだもらったことがない。そういえば今年に入って、どこかの大臣が職員に月餅の菓子折を配って問題になった。政治家が選挙区内の人へ金品を贈ることは、公職選挙法違反になるのではないかと報じられたっけ。あの問題はどうなったのだろう。