連載・特集

2025.2.23 みすず野

 白っぽくて、キラキラしたり艶があったりするものを、「銀」を冠して呼ぶことがある。例えば、ご飯を銀しゃり、スケートリンクを銀盤とか。雪が積もって辺り一面が真っ白になった様子を銀世界と言うのもそうだ◆「立廻す高ねは雪の銀屏風中にすみ絵の松本の里」。江戸後期の狂歌師・鹿都部真顔の歌が刻まれた碑が、松本市の深志神社の境内に立つ。江戸で活躍していた真顔が、松本を訪れた折、冬の景観の素晴らしさを詠んだ◆盆地の周囲にぐるりと立て巡らされた、雪をかぶった高い山脈は銀屏風のようで、その中にすっぽりと収まる松本の人里は墨絵(水墨画)で描いたかのようだ│。さすがは、地方にまで名前をとどろかせていた狂歌師。比喩を重ねて、モノクロの濃淡が見どころの景観をものの見事に言い当てている。そのなかには、漆黒の松本城の美しさも織り込んであるのかもしれない◆名歌は、時代を超える。真顔の歌は今の松本の冬景色にも十分に重ねられよう。同じ場所に長くいると、素晴らしい景色も当たり前となり、感動するのを忘れてしまいがちだ。折に触れて、足元の宝に目を向けることが必要だろう。