連載・特集

2024.12.25 みすず野

 年賀状を元日に確実に届けるためには、きょうまでに投函をと郵便局が呼びかけている。間に合った年は一度もない。29日に出し終わればいいほうだ。凝ったデザインにするわけでも、数多く差し出すのでもないが、ずるずると遅れてしまう◆来年のえとは「巳」だから、その図案をいくつか見たが、使うことはない。毎年、里山の道で遭遇して、飛びのき、思わず大声が出るあれだ。冬の山道が好きなのは、あれに出くわす心配がないからだ。十二支のうち、これだけは遠ざけている◆「正月に年賀状をかくためひさしぶりで毛筆をつかってみた。いつもペンをつかっているため運筆がうまくゆかなかったが、何故か書いているうちに腕や指さきに力をいれるやりかたがだんだんもどってきた」(『忘れの構造 新版』ちくま文庫)と、文筆家の戸井田道三(1909~88)は記す◆筆の穂の長短と柔軟さの違いにより手応えも異なる。その違いをマスターして、自由に操れるとき「筆は手の延長であって、たんなる物ではない」という。筆を使えればどんなにいいかと思うが、とても無理である。今年も夜更けに万年筆で一文字ずつ書く。