2024.11.8 みすず野
「映画は、壮大な虚構の世界である。その『うそ』を『まこと』に変える錬金術は、ひとえに隅々まで行き届いたディテイルの『ほんとらしさ』である」と、作家の林望さんは『イギリス観察辞典』(平凡社ライブラリー)でいう◆西部劇はさまざまな小道具などを楽しみに見る。屋外でコーヒーを飲むシーンは、ブリキのポットにコーヒー豆を入れ、そのままたき火で沸かす。このスタイルはキャンプでパーコレーターを使いまねてみた◆興味深く見るのは、理髪店でひげをそるシーン。鏡に向かった客のひげを店主がそっていく。無防備な姿になるだけに、後から銃撃されるのではないかと、思わず緊張する。無事に終わると、客があごや頬をなでながら、すっきりした笑顔を見せる。手のひらに伝わる微妙な感触でそり具合を確かめるのは、どこの国も同じだと知ったのは、毎日ひげをそるようになってからだ◆「ひげをあたる」という言い方をする。「す(そ)る」が身代をする(なくす)に通じることを嫌って言ったからだと『明鏡国語辞典』(大修館書店)にある。日本語の字幕、吹き替えで使われた例は、さああっただろうか。