連載・特集

2024.7.14 みすず野

 俳句作りに地貌季語を積極的に使おう。約40年にわたってこのように呼び掛けている、松本市の俳人の宮坂静生さん。同市を拠点に活動している岳俳句会の主宰や、現代俳句協会特別顧問を務める◆地貌季語は、全国各地の特色がよく出ていて、季節感のある行事や風物を表す言葉を指す。松本なら「青山様・ぼんぼん」、木曽なら「朴葉巻」を挙げれば、どのようなものをいうのか分かりやすいだろうか◆宮坂さんの編著で、先ごろ刊行された『俳句表現 作者と風土・地貌を楽しむ』に地貌季語の解説も載る。宮坂さんによると「木の根明く」「桜隠し」は近年人気の地貌季語。「雪国では山毛欅や樅などの木の根元から雪解けが始まる(中略)春の兆しを捉えた明るく弾んだ雪国のことばとして、木の根明くは至言である」「近年、桜が開く時期に雪に見舞われることがある。桜が雪に包まれる。桜隠しと呼ぶ(中略)桜も雪も古来稲の稔りを予祝することばと考えられている」◆宮坂さんの解説に、人気の理由が見えてくる。双方の言葉には住民の歓喜や事象の美しさが内包されているのだ。それらは力強さや清らかな響きも備える。