連載・特集

2024.6.4 みすず野

 工業高校を卒業後、大田区内の町工場で旋盤工として働きながら作家活動を続けてきた小関智弘さんは、定年後も鉄を削る仕事を月に何日か続けた。「人は働きながら、その人になってゆく。人格を形成するといっては大袈裟だけれど、その人がどんな仕事をして働いてきたかと、その人がどんな人であるのかを、切り離して考えることはできない」と語る(『仕事が人をつくる』岩波新書)◆同書では研削工、瓦職人、染色工、歯科技工士など10人を取材して、その技術や技能をどんな人が身に付け、ものを作るのかを書いている◆「聞き書きのあとがき」という文章を何度も読み返す。取材の日「初対面の方から、ほんとうに心を開いていただけるだろうか」という不安。それが無用の心配に終わった帰り「つい口笛でも吹いてしまうあの壮快さ」を10人からもらったと◆連載や特集などの取材を思い出す。資料を読み込み、質問項目を整理して記事構成を考える。それでも心を開いていただけたと思える取材はそれほど多くない。その後には文字にする仕事が待つ。残念だが「つい口笛でも吹いてしまう」ような記事は、なかなか書けない。