連載・特集

2024.6.22 みすず野

 日が落ち、看板に灯がともりだす。職場の仲間か、観光で訪れた二人連れか。店前のメニューをのぞき込み、何やら話して店内へ。たそがれ時の街は、昼間とは違った表情を見せる◆過日、松本駅前で知人と会食の機会があった。1軒目の店が思いの外やかましかったのに閉口し、下戸も左党も落ち着いて話ができる店を探そうとしばらく歩き回ったが、なかなか見つからない。一番驚いたのは、ここならと扉を押したバーで「すみません。8時でオーダーストップなんです」と言われたことだ◆3年続いた感染症禍で、すっかり自宅で飲む習慣が身に付いたのか。客が来なければ遅くまで店を開けても、経費ばかりがかさむ。地元の人間なら、それぞれにひいきの店があるかもしれない。観光客はどうだろう。外へ繰り出したい人をホテルの部屋に閉じこもらせておいたのでは、街の活気が失われてしまう◆経験上、偶然立ち寄った店の料理や酒が旅の一番の思い出になるのも珍しくない。大型商業施設の撤退で中心市街地の空洞化が言われる。夜のとばりに包まれた街を歩き、昼間とは違った観点で大丈夫かと心配になったことであった。