2024.6.18 みすず野
桑の実が熟れる時期だ。喜んで食べたのは中学生のころまでだろうか。最近は、桑の木が少なくなって、食べたくても簡単には見つからない。家の前の小さな畑の端に、いつの間にか桑が生えてきて毎年枝切りをしている。これに実がたくさんなる◆「黒くまた赤し桑の実なつかしき」(高野素十)。甘くて酸っぱいあの味はなんとなく懐かしく、熟れると今でもなかなかうまいと思うが、気をつけないと実がつぶれて服にその色が付く。これが洗っても落ちない。食べるときは実をつまんだ指が服に触れないよう気を遣った◆桑の実を知る子どもたちはどれくらいいるだろう。「桑の実を食べたる舌を見せにけり」(綾部仁喜)。口を開けると、紫色になった舌や歯が不気味で、面白く、友達と見せ合ったりしたのが懐かしい。こんなつまらないことでも、心底楽しかったのが昔の子どもだ◆正岡子規の「くだもの」という随筆では木曽の大きな桑の木に実がたくさんなっていて、子規はそれを夢中になって食べたという。「この日、子規の口は桑の実に染まり、すっかり紫色になっていただろう」(『季語集』坪内稔典著、岩波新書)と。