2024.5.24 みすず野
わが国原産の香辛料の代表は、安曇野の特産でもあるワサビだ。『江戸の健康食』(小泉武夫著、中公文庫)によると、平安時代の『延喜式』には若狭、越前、飛騨などからワサビが貢納されたと記されていて、9~10世紀には野生のものを採取し、16世紀には栽培も始まったそうだ◆食べ方は大半が生食で、おろしたワサビを酢に溶かし、しょう油と合わせて刺し身に使っていた。「おろすことにより、特有の辛味が生じることを体験的に知っていたから、刺し身のほか、鮨、蕎麦、茶漬け、蒲鉾などの香辛料として不可欠であり、珍重した」と◆辛味だけでなく、鼻につんとくる匂いと鮮やかな緑色は「まさに日本料理と一体になった香辛料」。生の香辛料をすりおろして、そのまま味わうというぜいたくな食べ方をする民族は「世界の中でも日本人ぐらいのものだろう」という◆注文するとワサビが1本添えられ、客がすりおろして好みの量を使うそば店に通ったこともある。「わさびが利く」というのは、ワサビのようにピリリとした鋭い内容を持った表現をいう。毎回というわけにはいかないものの、小欄も時にはひと味利かせたい。