連載・特集

2024.5.14 みすず野

 「美術館に行くと必ずポストカードを買う。使えばいいのに、ちょっと手元にその絵を置いておきたい。結局、ちょっとでなくてずっと置きたくなって絵ハガキはたまっていく」と書くのは、茅野市で父親が始めた書店を継いだ高村志保さん。昨年刊行されたエッセー集『絵本をあなたに贈る』(河出書房新社)の「お手紙」という1編だ◆手元にある美術館の絵はがきのなかで、安曇野市の碌山美術館で求めた数枚が、同じ理由で最も長く引き出しに入っている。40年ほどになるだろうか。美術館へ行く度に、数は多くはないが、気に入ったものが1枚、また1枚とたまっていく◆文字を書くスペースがわずかなのがありがたく、急ぎでない用件は絵はがきがいい。メールだと長文でも送れてしまうが、宛名を書いた後に残る全体の半分ほどの面積に書ける字数は限られる。小さな文字をちまちま書くようなことはしないから、すぐに埋まる◆高村さんは差し出した郵便物を運ぶ「郵便屋さんの姿が町に在ることがうれしい」とも記す。親しい誰かから送られてくる手書きの文字がつづられた絵はがきはその絵と文の二つの楽しみを載せて届く。