連載・特集

2024.3.21 みすず野

 新聞原稿を鉛筆で書いたのは、入社して5年ほどだった。ワープロ、パソコンが取って代わった。2Bの硬さで、4Bを使っている先輩もいた。書いては消すことの繰り返しだったから、国産の軟らかいものを会社が支給していた◆作家・庄野潤三さんの『庄野潤三の本 山の上の家』(夏葉社)には、自宅書斎に残る、原稿を書いた鉛筆の写真が載っている。短くなるまで使ったドイツ製の3Bが、箱にぎっしり詰まっている◆庄野さんの「世界展」で書斎の写真を見た作家・佐伯一麦さんは、この鉛筆が「愛用品の中でもっとも印象深かった」という。随筆家・串田孫一さんは「最後の最後まで、ホルダーにはめたりして使う」といい「字を書くことが仕事ではあるが、鉛筆の減り方から言うと、絵を描くのに使う方が多い」(『文房具56話』ちくま文庫)と◆仕事で使わなくなると鉛筆とは縁がなくなった。串田さんも書かれているが、万年筆の文字は、年月が経ると色があせる。それに比べ、鉛筆は全くあせない。長く残したい物は「毛筆とか鉛筆を使うべき」だと。新聞原稿は何年も保存などしないから、無縁の話ではあるけれど。

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