連載・特集

2024.2.7 みすず野

 地元の寺は節分に法要を行い、家内安全、商売繁盛などを祈願したお札を、申し込んだ檀家に役員が届ける。このとき、紅白の落雁を添える慣習になっている。落雁は米、麦、大豆などの粉に砂糖、水あめなどを入れて練ってから型抜きをした干菓子。檀家に配るのもごく一般的な落雁だ。人それぞれに味覚は異なるがかなり甘い◆夏目漱石の弟子の一人で、物理学者、随筆家の寺田寅彦は、甘い物好きで知られた。宇宙物理学者の池内了さんは『ふだん着の寺田寅彦』(平凡社)で、寅彦はおはぎに砂糖をかけて食べたり、黒砂糖を削ってごはんの上にかけたり、赤飯にはごま塩の代わりに砂糖をかけて食べたという話を紹介している◆それほどの甘党には、まだ甘さが足りないといわれそうな落雁だが、最近檀家には人気がなく、いらないといわれることもあるとか。甘すぎる味は、敬遠されるようになったのかもしれない◆丸い形に寺の紋を入れただけの簡単なもの。全国には大名茶人らが作らせた、名所を描いたり、筆やすずりをかたどったりした中国趣味のカラフルな落雁もあったという。毎年届くこの味は、変わらずに残してほしい。