連載・特集

2025.5.7みすず野

 本に線を引く習慣がない。後で必要になると思うページには付せんを貼る。用が済めば跡を残さずはがせる便利な付せんがもうずっと前から出回るようになり、ずいぶん便利になった◆「受験勉強のときには参考書に赤鉛筆でたくさん線を引いた」と、翻訳家の青山南さんは『本は眺めたり触ったりが楽しい』(ちくま文庫)で回想する。あれも覚えなくては、これも覚えなくてはと線を引くうちに「ページはまっかっかになり」どれを覚えるのかわからなくなった◆それならと、本当に大切な部分に青鉛筆で線を引く作戦を立てたが、ページがカラフルになっただけだったという。でも、参考書以外の本には線を引けなかったと。これはよくわかる。「優先すべきは、書いた作者か、読んでいるじぶんか。線を引きはじめのころは、作者だ、とおもっていた」◆何年か前からラインマーカーが登場して、これで文章をなぞるやり方がある。購入した古本にこれがあると、確認しなかったことを後悔する。ページの裏ににじんでいたりもする。一度も使ったことがない。本はいずれ手元を離れ、必要とする人が入手するだろうと思っているからだ。