連載・特集

2023.11.3 みすず野

 暮らしの歳時記のような本を見ると、「文化の日」のきょうは、全国で秋祭りが行われるようだ。ずいぶん昔になるが、母の実家では毎年この日が祭りだった。祖父母を上座に親戚が座り、全員の前にお膳が置かれていた◆20人ほどが並んだだろうか。料理は仕出しなどほとんどなくこの家の主婦が手作りしていたはずで、当日は集まった女性も手伝ったが、準備は大変だったと思う◆歌が出て、踊りが出て、暗くなるとお開きになった。自家用車(!)などなく電車、バスを乗り継いで帰って行った。祖父は長いあごひげをたくわえ、静かに座る姿には威厳があった。こうした「おじいさん」は見られなくなったようだ◆地元ではやはり秋に祭りがあり、神事の後、その年の当番の家に関係者が寄った。当番が回ってくるのは生涯で1度だけだが家の中には大人があふれていたから、飲食の出費はかなりの額だ。あのような祭りはいつまで続いたのだろう。祭りに関わるわずらわしい諸事からは解放されていたが、コロナがさらに拍車をかけた。引き換えに大切なものを少しずつ失ってきたのかもしれない。それが何かはわからないけれど。