元信大留学生が源氏物語をポーランド語に全訳へ ワルシャワ大教授のコルジンスカナブロツカさん

ポーランドのワルシャワ大学教授で、信州大学に留学経験があるイボナ・コルジンスカナブロツカさん(58)が、国家プロジェクトの一環で『源氏物語』の全訳に取り組んでいる。文化的背景が異なる日本の文学をポーランド語に訳すのは苦労も多いが、「大好きな日本」の魅力を自国に伝えようと励んでいる。
コルジンスカナブロツカさんはワルシャワ大日本学科を卒業後、信大大学院で2年半研究に打ち込んだ。『源氏物語』は信大の修士論文をはじめ長く取り組むテーマ。欧州の女性作家の活躍に先駆け、平安時代に女性文学が多く生まれたことに興味を引かれ、特に戦争がなかった時代の日常や恋愛、人間模様がつづられた『源氏物語』に魅了されたという。
留学時代を過ごした松本は、生活リズムや自然豊かな環境が故郷に似ており、研究のため度々、数カ月単位で訪れている。今年も翻訳に必要な資料収集や調査を目的に27日まで約1カ月間、松本を拠点に滞在している。
コルジンスカナブロツカさんは「英気を養い、物語ゆかりの京都も訪れて情景が色鮮やかになった」と話し、「自分が感じた面白さが伝わるよう、分かりやすく読めるものにしたい」と意気込む。
『源氏物語』のポーランド語訳はこれまで部分的にしかなく、全訳は初。世界の傑作を紹介するプロジェクトに採用され、一昨年から5年計画で進める。建築や植物など単純に置き換えられない言葉も多く、意味の正確さより内容を適切に伝えることを心掛けているという。
留学時に指導した信大名誉教授・渡邊秀夫さん(75)=松本市松原=も、翻訳書に付く解説などに協力する。渡邊さんは「言語の壁は大きい。(ポーランドで)『源氏物語』から日本への興味を持ってもらえれば」と願っている。