2023.9.22 みすず野
近所に梁山泊というギョーザの店があった。老夫婦が営むカウンター席のみの小さな店にしては大仰な名を付けたものだが、集まってくるのは―無法者の豪傑たちではなく―普通の勤め人や学生だった◆花和尚こと魯智深や九紋竜の史進...多彩な顔ぶれが梁山泊入りし、官軍を相手に大暴れ。歴史作家が手掛けた独自の『水滸伝』のほか漫画やゲームもあり、それぞれ好きなキャラクターを挙げる読者もおられよう。実話に基づく。反逆者集団が活躍する物語は、政治の腐敗にうんざりした民衆の願望も映している(『中国の五大小説・下』岩波新書)◆登場人物の荒々しさや虚構世界の展開はさておき―現実の社会も組織もさまざまな個性や、人との関わりが形づくっているのだと言ったら、何をいまさらと笑われるだろうか。リーダー宗江の偏狭さが現代の読者には歯がゆい。梁山泊メンバーの間に〈何を言っても変わらない〉と諦めムードが広がっていく◆学生時代に文学好きの仲間と「梁山泊」を気取っていた。ギョーザの店とともに身の程知らずの自分も懐かしい。若気の至りであっても、現状に甘んじない気概は忘れずにいたい。