2025.5.5 みすず野
茅野市の蓼科高原で、映画監督の小津安二郎はシナリオを執筆していた。俳優の中村伸郎は、昭和28(1953)年の「東京物語」30年の「早春」、32年の「東京暮色」、33年「彼岸花」、35年「秋日和」、37年「秋刀魚の味」の小津作品に出演している◆痩身で知的な雰囲気を漂わせていた。こうした映画作品に登場したのは40代半ばから50代にかけての頃。それなのに老人の風格がある。その語り口とともに印象に残る。昔の大人は今より老けていたということか。晩年の出演作品では、伊丹十三監督「タンポポ」の大学の名誉教授を装ったすりの老紳士役を覚えている◆蓼科で仕上げた台本を持ち帰ると出演者が集められて「読み合わせをし撮影が始まるわけである」(『永くもがなの酒びたり』(早川書房)と自著で振り返る。映画の中で酒が出てくる場面では本物のウイスキーのオンザロックを「テストの時から飲め、飲め、飲んで雰囲気を出せ」と言われる◆「私など好きな奴は大いに飲み、セットに冷蔵庫を置いて新鮮な生うにを何度もお代りさせて下さった」と懐かしむ。こんな句を詠んでいる。「奇遇とて昼酒となり冷奴」