2023.8.10 みすず野
病院のベッドか。一人の老人が横たわっている。父の臨終を描いたという。気持ちが華やぎ清々とするといった絵ではないけれど、人生の足取りや深みをも感じさせる。〈しじま〉は昭和55(1980)年の日展で特選に輝いた◆安曇野市の日本画家・岸野圭作さんの初入選から半世紀に及ぶ日展作品が個人蔵も含め、一堂にそろった。写真では草花の群がりとしか見えなかった1点に目を凝らすと、花びらや葉の一枚一枚が実に細かく描かれていると分かる。古希記念の回顧展は豊科近代美術館で27日まで◆元日付の紙面に載せる年賀状を所望した時―身内に不幸があったので今年は欠礼やと言いながら―梅の花を一枝描き、傍らに「美意延年」と彫った印を押してくださった。祝う意味の字は入っていないからええやろうと。若輩の身でこんなことを書くのは失礼かもしれないが、懐の深い人だと思った◆白秋、朱夏、玄冬...タイトルにも味がある。会場じゅう探し回ったが、もう一つが見つからない。「誰が言ったか〈七十八十はな垂れ小僧〉―はなが垂れなくなるまで頑張ってみたい」と岸野さん。青春はきっとこれからなのだろう。