連載・特集

2023.7.27みすず野

 〈暑中ハ我等ノ勉強スベキ時ニアラズ、遊ブベシ〉谷崎潤一郎が旧制中学校1年生の明治34(1901)年に書いたとされる作文の一節だ(読点を一部省いた)。夏休み前の心躍りが格調高くつづられ、弾むような文から後の文豪の片りんがのぞく◆夕涼みや遊泳、植物採集...は今も変わらない。諸国を遍歴して日頃の胸のうちを〈一洗スルモ可〉とあるのが面白かった。経験を積んだり学んだりするのではなく、心の中をすっきりさせる。一生徒の言い分だから"満額回答"は難しいかもしれない。現代の子供たち(と保護者)は「自由」研究などに追われる◆夏休みの宿題をなくす取り組みがNHKの番組で紹介されていた。飽きるほど本を読み、釣りに行けるといい。感想文や絵日記のための読書、釣りはきっとつまらない。好ましい変化だと思って見ていたら、主体性を伸ばすのが目的という―やっぱり勉強なのか。勉強よりもしっかり遊ぶ。心を休める。能天気だと笑われるだろう◆谷崎少年は作文をこう結ぶ。〈天地ハ早ヤ暑中ノ景色ヲアラハシテ予等ノ来遊ヲ待テリ、アヽ愉快ナル哉〉全集の解題によると、評点は98点だった。

連載・特集

もっと見る