2023.7.2みすず野
出勤日の昼に何を食べようかと考える。週に1度は、コンビニのサンドイッチに手を伸ばしたくなる。フルーツや甘い系統以外は、どれでも満足だ。ただ、ほかの候補を考えると、決して安くはない◆サンドイッチにビールという組み合わせは、ロバート・B・パーカーの私立探偵小説で覚えた。主人公のスペンサーはしばしば作中で注文する。シリーズ第1作の『ゴッドウルフの行方』(ハヤカワ・ミステリ文庫)では、午後3時ころに入ったパブで頼んでいる。「ウェイトレスが、ピックルズとポテト・チップスのついた黒っぽいパンの大きなサンドウィッチを運んできた」とある◆作家・佐々木護さんは、私立探偵小説とは「人が自分の内に原則を持ち、その原則をできうるかぎり守って日々を(断じて、非日常を、ではなく)生きること。そのしんどさ、やりきれなさと、それにもかかわらずそうし続ける男の誇りを描くもの」(『ミステリ・ハンドブック』(早川書房編集部編、ハヤカワ文庫)と説く◆仕事中にまさかビールは飲めないが、レタスやハムを味わいながら、そんな小説のあれこれを考えるのもサンドイッチの楽しみだ。