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「お客と歩む」商い再出発 木曽町福島 木下さん夫婦 老舗スナック→お好み焼き店

開店から3カ月余り。お好み焼きを食べた小学生の「世界一おいしいお好み焼きだね」の言葉が本当にうれしかったと話す木下さん夫婦

 木曽町福島の木下啓一さん(78)と妻の泰子さん(81)が、自宅を改装し、お好み焼き店「冨久福」をオープンさせた。夫婦は昨秋、町内で半世紀にわたって営んだスナック「サンマリノ」を閉じたが「やっぱり、お客さんを迎えるひとときが幸せ」と業態を変えて再出発した。「お好み焼きならお客さんに焼いてもらえる。負担も少ない」と、夫婦で無理なくできる商売を選んだ。

 サンマリノは、木曽路が観光で沸いた時代から〝観光の陽〟が傾くまで、町の時世を50年間見つめてきた名物店だった。定休日は大みそかと元日の2日間のみ。夫婦の人柄も人気を呼び「サンマリノの看板が消える日はない」と評判だったが、新型コロナウイルス禍で客足が遠のき、入居するビルの老朽化もあり、昨年10月、看板の灯を落とした。
 「夫婦2人で話すこともなくてね」という日々が始まった。「このまま人生が終わっちゃうのかな」と思い始めた頃、自宅の押し入れから、かつて両親が営んでいた食堂で使っていた包装紙が出てきた。店名は「冨久福」だった。「両親と同じ店名でもう1度勝負してみようか」。夫婦で各地のお好み焼き店を食べ歩いて研究を重ね、今年1月、4人掛けのテーブル席が二つの小さな店を開いた。
 「おいしくなきゃお客さんは来ない」と味にこだわり、生地に山芋を混ぜ、ふんわりとした食感を生み出した。開店から3カ月余り。お好み焼きの「もち・チーズ玉」がすでに看板商品だ。サンマリノの常連客も足しげく通う。
 夫婦は「この年になっても新しいお客さんと出会うことができるのも財産」と口をそろえる。啓一さんは「最低10年は続けたいね」と話し、泰子さんは「『おいしい』の言葉をやりがいに、それを信じてやっていきたい」と笑顔を見せる。営業時間は午後5~10時で日曜定休、要予約。問い合わせは冨久福(電話0264・22・2281)へ。