連載・特集

2023.5.20みすず野

 塩尻市長を3期12年務めた三沢光広さんは、平成14(2002)年5月、記者会見を開き、次期市長選不出馬を表明された。塩尻支社に着任して1カ月足らずで、前任者から引き継いだ市長の進退を他社に先駆けて報じるということはできなかった。会見後、三沢さんは「どこにも先に書かれないようにしたよ」と話された◆忘れられないのは任期満了の日だ。退任式を終え、正面玄関から列をつくった職員に見送られ市役所を去った。これで公務は全て終了したはずだ。ところが三沢さんは、最後にもう一仕事した◆その夜、塩尻西小学校のシックハウス問題で、機会があれば保護者に直接謝罪したいと言っていた三沢さんは、市教育委員会が開いた講演会の会場に足を運んだ。「今回の問題は対応が遅れ、皆さんの意思にそえなかった。おわびを申し上げたい。本当に皆さんすみませんでした」と頭を下げられた。静まりかえった会場を一人去る姿がまぶたに残る◆きょう市内で葬儀。信条の「清潔にして公正、愛情あふれるヒューマンな政治」を貫かれた。退任後も会う度に軽く手を上げ、「やあやあ」とかけられた声が今も聞こえる。

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