連載・特集

2023.4.22 みすず野

 小学校の帰りの道で、大人が働く姿に見入ると時間を忘れた。らせん状になる旋盤くずが面白くて小さな工場の窓から見続けた。友達とほとんど毎日道草をくって立ち寄ったのは製材所。材木を乗せた電車のような機械が動く様子を飽きることなく見ていた◆今でも工事現場の大型建設機械や、変わった形の農業機械が動いていると、車を止めて見入ってしまう。大型トラックが狭い交差点を通過する巧みな運転には、思わず声が出る。湖上で打った投網が、その都度異なる動線を描いて広がる様子は目の奥に焼き付く◆この時期の楽しみは、水田で稼働している大型トラクターだ。水や土と対話をしているかのように進む。比べるのもおこがましい子猫の額ほどの田で小さなトラクターを運転しているが大型農機の全ての動きが参考になる。実際に目にすることが、何より役に立つ◆この地で働くことになったとき、先輩が話してくれた「ここには、土を相手に汗を流している偉い人が大勢いる」という言葉が、今も忘れられない。アルプスを背景に広がる安曇野や松本平の豊かな大地で、ゆったりと農機が動いている。その姿がまぶしい。