2023.3.2 みすず野
絵本画家いわさきちひろ(1918~74)は空襲で焼け出され、家族と離れ離れになって川の近くの空き地で、バケツで水をかぶりながら一夜を明かす。この体験が『戦火のなかの子どもたち』を生んだ。長男の松本猛さんが『ちひろ美術館の窓から』に書いている◆『司馬遼太郎の時代』(中公新書)も学徒出陣で戦車兵になった体験を挙げる。技術を軽んじ、精神論を振りかざす軍組織への批判が―後に前例や定石にこだわらない、合理性重視の人物描写へとつながった。秋山好古・真之、土方歳三しかり◆もちろん戦争と同列には語れないけれど、コロナ下の生徒たちも特異な時代を生きたと言えるだろう。勉強・行事や部活動がさまざま制約された。マスクを外した級友の素顔!まさか初めて見る場が卒業式になろうとは。あのつらさがあったからこそ、今の私がある―そう言える未来をと願わずにいられない◆松本さんはこうつづる。『戦火―』に描かれた母子や子どもの姿はちひろ自身が見て感じた光景なのだと。若い時に考えたことは何十年たってもきっと残る。式での友の笑顔、はなむけの言葉とともに心の糧としてほしい。