連載・特集

2025.5.2 みすず野

 店頭に並ぶタケノコがいい色をしている。形もどことなく楽しげで、そこにあるだけでなぜか口元が緩む。売り場を見渡してそんな食材は他にはない。ただ、値段を見ると手がとまる◆「竹の秋」という春の季語があると知った。「春先になると、竹は前年から蓄えた養分を地下の筍に送るため葉が黄ばんだ状態になる。これが他の植物の秋の様子を思わせる」(『俳句歳時記』角川書店)とある◆タケノコの孟宗竹は江戸時代に鹿児島に入った。日本の伝統建築では竹がよく使われてきたと建築史家の藤森照信さんはいう(『増補版天下無敵の建築学入門』ちくま文庫)。土壁や茅葺きの下地としての使用例を挙げる。これは目にしたことがある。竹は木のように石器で切ることができない。切ろうとすると「潰れるだけ。竹は鉄器がないと」切り出せない◆竹が利用されるようになるのは鉄器が登場する弥生時代以後。弥生時代の高床式建物は杉やヒノキ、松をたくさん使っているが「おしなべて竹的に使われ、全体の印象は細身で軽くて強靱で明るい」そうだ。タケノコは孟宗竹、淡竹、真竹の順で出ると聞く。煮ものの歯触りがいい。