2023.3.1 みすず野
奈良へ行くと決まって手拭いの店に寄る。一本2000円前後だから手頃な旅の記念、お土産に重宝し、何よりも軽くてかさばらないところがいい。だんだんと鹿や大仏の絵柄では堪能しなくなり、仁王像とか筆...一番のお気に入りは「糊こぼし椿」◆東大寺開山堂に咲く。紅い花に糊をこぼしたようなまだら模様が名の由来といい、伝統行事のお水取り(二月堂修二会)では紙の造花が堂内に飾られる。たいまつが火の粉を散らしながら巡る本行はきょうから2週間。天下安穏の祈りが古都に春の訪れを告げる◆奈良時代から一度も中断されず、今年1272回目という。平安末期に平氏の焼き討ちで大仏殿が炎上した翌年、寺執行部の中止決定に僧侶の有志は従わなかった。その後も、凶作や戦火で挙行が危ぶまれるたび〈お水取りだけは〉と守り伝えられてきた(西山厚さん著『語りだす奈良―118の物語』)◆記者はこの3年間「行事が中止になった」とたびたび書いた。一部正確でない。大勢が集まる場面はなくても、神事や仏事は細々と地域住民の手で続けられた。祈りの場に思いをはせ、腰に糊こぼしの手拭いを着けるとしよう。