連載・特集

2023.2.22 みすず野

 出勤途上のカーラジオから流れてきた曲は―いつもなら乃木坂46とか流行歌なのに―「宇宙戦艦ヤマト」と「銀河鉄道999」だった。ヤマトの波動砲が火を噴く映像や当時の高揚感とともに、口ずさんだ同世代も多かっただろう◆漫画家・松本零士さんの訃報が載る各紙を読み、出郷時の駅の光景や心細さが胸によみがえった。手塚治虫さんに憧れ、北九州の小倉から単身上京したという。惑星を巡る列車はその時の汽車であり、鉄郎少年は作者自身の投影だった。銀河鉄道の旅は読者の夢を宇宙へといざなった◆夜空の乗り物は20世紀の宮澤賢治よりはるか前、万葉集に出てくる。「令和」の考案者とされる中西進さんのエッセーに「月の船」という言葉を教わった。日本最古の漢詩集『懐風藻』にも〈月の舟は霧の渚に移り〉とあり、古代人は天上を海に、月を船に見立てた(『旅ことばの旅』)◆電車に乗ってぼんやり外を眺めるひとときが好きだ―と『あのとき僕は』の斉藤政喜さんが言っていた。車窓に流れる街の夜景や海、山を見ながら「あんなことがあった。こんなこともあった」。銀河鉄道はこれからも夜空を走り続ける。