連載・特集

2025.3.21 みすず野

 年度末、年度初めは職場、地域での会議が増える。人事異動、役員交代などで、あまりなじみがなかった人と顔を合わせる。あいさつを交わしたり名前を知っていたりというほどの人たちが、さほど大人数ではない集まりで席を並べるとなんとなく気まずい◆つまらない話でいいからきっかけをつくって、その場の皆で笑えれば一気に雰囲気が変わるのにと思うのだ。「何人か寄って、話をしていて、笑えないのは、つらい。まじめな話合いでも、一と区切りつけば、笑いたい」と俳優の芥川比呂志はいう(『日本の名随筆・笑』作品社)◆夜の座敷の客は数人、主人を囲んで話が弾むが自分一人だけ無言。酒の味を知らない頃で、無理に飲んだビールが気分を重くした。ふと、主人が「きみ、靴下をぬいでごらん、楽になる」と声をかけた。言われたとおりにしたら効果はてきめんで、しゃべれるようになる◆隣から勧められた酒を断ろうとすると、主人が自分のさかずきを差し出して「おどけた調子で言う。『弱きを助けよ』私は、はじめて、みなといっしょに哄笑した」。そしてこう結ぶ。「青森県金木町のその家の主人の名は、太宰治」