中の湯爆発事故30年 備えの重要性惨事で実感 消防隊員が回顧

旧安曇村(松本市安曇)中の湯の中部縦貫道・安房トンネルの取り付け道路工事現場で平成7(1995)年に起きた火山ガスによる水蒸気爆発事故は、11日で30年になった。土砂で生き埋めとなった作業員4人が亡くなる大惨事だった。9年にトンネルが開通して国道158号の通年通行が実現したが、困難を極めた救出作業に当たった消防関係者からは市民に対し、火山帯を通る道路ということへの留意を願う声が聞かれた。
松本広域消防局塩尻消防署長の上原康二さん(58)は当時、勤務していた渚署(松本市)から出動して真っ先に現場にたどり着いた。一帯は真っ白な水蒸気に覆われ、通報者とも接触できず、当初は状況が全くつかめなかった。
先輩と命綱をつないで探索すると、すさまじい量の土砂の中からダンプカーの屋根が露出していた。「要救助者がいるかも」と掘ろうとしたが、地面は熱く、人力だけの救助は到底無理だった。捜索活動は大量の土砂や水蒸気で難航し、4人目の犠牲者が収容されたのは、発生から4日後の15日だった。
現在、現場付近では火山ガスを常時観測する体制が整えられている。松本広域消防局で最も現場に近い梓川署安曇出張所は、火山ガス測定器を備えている。
上原さんが事故現場で感じたのは「自然の驚異」と「情報収集の大切さ」だ。「景観や温泉といった恩恵の裏には災害のリスクがある」。現場近くの焼岳は令和4年に微少な火山性地震が一時的に増加するなど、近年も火山活動が見られる。「普段から情報収集を心掛け、『もしも』を想定してほしい。日頃の準備が災害時に大きな力になる」と話している。