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愛された果物店が店じまいへ 松本駅前の「フルーツやまだ」 山田さん夫妻が高齢化や街の変化で決断

半世紀以上にわたって松本駅前で「フルーツやまだ」を営んできた山田さん夫妻

 松本駅前で半世紀以上にわたって営業してきた果物店「フルーツやまだ」=松本市中央1、新伊勢町=が、来月末で閉店する。市民や駅を利用する観光客が、信州特産のリンゴやスイカを贈り物や土産物に購入する店として親しまれたが、経営する山田一宇さん(82)、のり子さん(76)夫妻が、高齢となったことと街中の人の流れの変化を受けて決断した。全国の常連客から惜しむ声が上がっている。

 フルーツやまだは、大町市出身で大学卒業後に実業団野球でプレーし、都内の果物店で経験を積んだ一宇さんと、地元出身ののり子さんが入籍して1週間後の、昭和48(1973)年12月25日に開店した。一番忙しかったのは「やまびこ国体」が開かれた53年ころで、国体に合わせて新しくなった駅を利用して多くの観光客が松本を訪れた。信州特産の果物は土産物の定番で、駅前だけで5、6件の果物店があったという。
 のり子さんは「産後に実家に帰っていたら『人手が足りない』と呼ばれて慌てて自転車で駆けつけたこともあった」と振り返る。一番忙しい時期に重なった2人の娘の子育てと商売を、夫婦で協力して乗り越えてきた。
 そのうちにスーパーが増えて、果物店で買い物する人が減ってきた。車社会の到来で、駅前にあふれていた人波が引き、町内の仲間の閉店が増えていった。一宇さんは「今、店の前を通るのは学生がほとんど。駅前に人が集まらなくなった」と嘆く。毎朝6時半に市場へ仕入れに行くのも10キロ以上あるリンゴの箱を持ち上げるのも、きつくなってきたとはいえできないわけではない。ただ店を取り巻く状況を見た時、これ以上は難しいと判断した。
 3月以降は松本市蟻ケ崎6の自宅で、注文を受けた分を発送する受注販売の店を始める。全国の常連客にも年賀状で通知した。夫妻は「待っていてくれる人には引き続き応えたい」としつつ「多くの人に支えられてこれまで店を営業できたことに感謝している」と話している。