道路改良が事故防止の鍵に まつもと道路交通考・第1部⑤生活の足に車が欠かせず

松本地域の市町村は新たな発想で公共交通の維持・充実に努めている。松本市は令和5年に路線バスの存続を図るため公設民営バス事業に乗り出し、スマートフォン(スマホ)によるキャッシュレス運賃決済の導入などで利便性も高めた。同市や安曇野市、塩尻市はスマホの専用アプリなどで予約する乗合型のバス・タクシー運行(デマンド交通)を拡充している。
こうした取り組みは高齢者の買い物や通院に大きな助けとなるほか、マイカー利用の抑制にもつながり、道路渋滞の軽減や温室効果ガスの排出抑制というメリットも生み出す。行政が住民ニーズをくみ取りながら公共交通を維持していく姿勢は極めて大切だ。
ただ、松本地域には鉄道やバスといった公共交通にアクセスしにくい住民も少なくない。
松本市と山形村、朝日村がまとめた松本地域公共交通計画(令和5年3月改定)によると、3市村の住民のうち最寄りの鉄道駅から1キロ以上またはバス停(デマンド交通等も含む)から500メートル以上離れた「公共交通空白地域」に住む人口は計1万9340人だ。3市村合計の人口に占める比率は約7・5%と一見低いが、人口密度の高い松本市街地北部や同市里山辺地区、同市寿地区などにも空白地域が存在する。利用者にとっては便数の少なさ(路線バス)や予約の手間(デマンド交通)といった使い勝手の問題もある。
「主役」はやはり車(マイカー)だ。住民の移動実態に関する松本市の令和元年調査(7082人が回答)によると、家族による送迎を含むマイカー移動が主体との回答が68.5%を占め、鉄道の4・0%、バスの1・4%を大きく引き離した。山形村と朝日村の高齢者(65歳以上)を対象にした令和2年調査(2481人が回答)でもマイカー移動(送迎も含む)に頼る人が全体の約85%を占めた。
こうした点を踏まえれば、公共交通利用へのシフトを粘り強く続ける一方で、マイカー頼みの「クルマ社会」という事実から目をそらさず、安全運転の推進と道路環境の改善を地道に進めていくことが求められる。
幸い、信州のドライバーは信号機のない横断歩道で歩行者のために一時停止する比率が87.0%と9年連続で日本一(令和6年、日本自動車連盟=JAF調べ)だ。道路事情の貧弱さが背景にあるとされる強引な運転方法「松本走り」の危険性を地域全体でしっかりと共有し、だれもが安心して道路を利用できる環境づくりを急ぎたい。
松本市交通ネットワーク課によると、市内では昨年までの10年間に「こまくさ道路」の蟻ケ崎高校交差点など交差点26カ所に右折レーンが新設され、クルマの流れが良くなった。ただ、改善ポイントはまだまだ目白押しだ。同市の国道19号上り新橋交差点は市街地の「北の玄関口」にもかかわらず、直進レーンと右折レーンが重複しており、右折待ちの車に行く手を阻まれた後続の直進車が左折専用レーンにはみ出して通過することが常態化していて危険だ。
悲惨な事故が起きてからでは遅い。住民の声を受け止めるなどして道路環境の危険性を見極め、たとえ小さな改良でも着実に進めていくことが求められる。
(第1部終わり)
第2部は2月に連載します。随時掲載の「まつもと道路交通考」にもご期待ください。