2025.1.28 みすず野
この仕事に就いた頃、年が近い先輩に大きな影響を受けた。誰もが有能と認める仕事ぶりとともに気さくな人柄に引き付けられた。服装や食事の仕方、酒場の作法までまねをするくらいに傾倒した。電話取材が始まると、素知らぬ顔をしながら、ひと言も聞き逃すまいと集中したことを思い出す◆民俗学者、国文学者で歌人でもあった折口信夫の弟子たちは、先生をまねてハンチングをかぶっていたという。夏目漱石門下は、漱石がいろんな色のインクをまぜて、セピア色のインクにして書いていたのを見て、一時期みんながまねたそうだ◆作家の丸谷才一さんは「かういふ態度を軽蔑することはやさしい」としながらも「さういふ風俗に出会った場合、むしろ、微笑をもってこれを眺めるのが正しいやうな気がする」と語る(『どこ吹く風』講談社)◆そして「先生といふのは本来スターなのだから、われわれはむしろ、スター性の強烈な師を持った人の幸福を羨むべきなのである」とか。確かに幸福な体験ではあったが、その上で師にどれくらい近づけたのかは自信がない。仕事ぶりをみて、まだこの程度かと言われそうな気がしている。