2025.1.24 みすず野
面白いと思った話を人に伝えようとして、さっぱり面白がってもらえないとがっかりする。面白さの基準のようなものが人により違うのだろうが、伝え方が下手だということもあるだろう◆作家の辻原登さんは「短篇というのはきまって『いい話』なのだから、他人によんで聞かせたくなるというのが人情。最近その思いがしきりで、家族や友人たちに(中略)声に出して読むのだが、僕はけっこう朗読がうまいんだ」(『新版熱い読書 冷たい読書』(ちくま文庫)という◆黙読法は「近代になって、つまり紙の大量生産、印刷技術の向上、電灯の普及」などによって後天的に身に付けた技法で、しかも完全な黙読はあり得ず「必ず内心で声にならない声を出してよんでいる。この声が文脈をつくり、文意が僕らの脳に届く。試してみて下さい」と勧める◆「口も立ち筆も立川談四楼」を掲げる落語家の談四楼師匠の近刊『七人の弟子』(左右社)は3編の小説を収める。その中の『三日間の弟子』は「信州の伊那谷」での独演会主催者と師匠の交流を描く実に「いい話」。わずか21ページだが、胸を打つ。朗読して聞かせる自信はないけれど。