2025.1.23 みすず野
コイを輪切りにして砂糖をたっぷり入れ、しょう油と酒で5~6時間火にかけ、骨まで柔らかくした「コイの甘煮」を、元総理大臣の田中角栄が好んだと『宿帳が語る昭和100年』(山崎まゆみ著、潮出版社)にある。福島県会津若松市の温泉宿の名物だった◆著者は「甘じょっぱい味を田中角栄が好んだのは、味付けの濃い雪国で生まれ育ったためだろう」と推測する。この宿は国賓も訪れた。米国の通商代表一行20人がコイの甘煮を見て、ナイフとフォークをリクエストする。社長は会津漆器20個がだめになると覚悟したが、箸で食べられると止めた人がいて事なきを得た◆コイの煮つけは、県内どこでも食べられるのではないだろうか。佐久が有名だがスーパーの魚売り場で見かける。祭りや祝い事には必ず登場した。箸を使って身をほぐすのが難しく、子どもの舌にはうれしくない味だった◆それが今では、実にうまいと味わうのだから、味覚も年とともに変化するのだろう。ひと頃、コイ釣りに夢中になった。大物を釣り上げたこともあったが1匹も食べなかった。どこか哲学的なコイのひげに位負けした気がしていつも放流した。