2025.1.20みすず野
季節ごとに名句を紹介した『名句水先案内』(小川軽舟著、角川書店)をパラパラやっていたら、1月の句に「読初の灯ともし頃となりにけり」(岩岡中正)があった。季語は「読初」。新年になって初めて書物を読むこと◆『合本俳句歳時記』(同)によると「もとは読書始として宮中や将軍家などで新年初めての購読をいい、江戸時代に一般の人も行うようになった」とある。男子は『孝経』、女子は『文正草子』(御伽草子)を読んだという◆句の内容は「読初に用意していた本を開くとたちまち引き込まれた。気づいたら手許がほの暗く、灯ともし頃になっていた」。ただそれだけだが「淑気がゆるんで日常に近づく名残惜しさが、灯ともし頃という言葉の寂しさ、人懐かしさと共振して余韻をなす」と説く◆きょうは大寒。一年で最も寒い日々が続く頃とされる。新年も20日目になると、もう正月気分はない。今年の読初はどの本だったかと考えても覚えていないが、この句の静かで穏やかな雰囲気には、暖かな部屋で本を手にした様子が浮かぶ。淑気はゆるんだが、寒気にはしばらく付き合わなくてはならない。風邪に気をつけて。