連載・特集

2024.12.31 みすず野

 「グォ~ンと腹に響く除夜の鐘の音は、歳末列島の光と闇に浸みわたる。諸行無常の音色をきいて、迎春の朝となるのが恒例の行事である」と、科学史家の金子務さんは書いた(『街角の科学誌』中公新書ラクレ)。今夜、各地の寺で鐘の音が聞かれる◆大みそかに除夜の鐘を突く様子が中継される京都・知恩院の鐘は、重さが約70トンという大きな釣り鐘。奈良の東大寺京都の方広寺とともに日本三大梵鐘とか◆ドイツの理論物理学者でノーベル物理学賞を受賞したアインシュタイン博士は、大正11(1922)年、43日間日本に滞在した。知恩院を訪れた博士は、この鐘の下に立ち「頭を突っ込んで響く音色の変化を楽しんだ」。鐘の中は音が響き合って小さくなり博士はそれを予測していたという◆金子さんは108とされる鐘を突く回数を確かめに鎌倉の有名な寺を訪ねる。そこでは鐘楼の横木に小石を108個並べ、1回突くごとに小石を1個布袋に収めていた。昨年まで3年間役員を務めた地元の寺の除夜の鐘は、最初の年、コロナ禍で参拝客が少なく合間に役員が交代で突いた。担当者は「正」の字をメモしながら、回数を数えていた。