連載・特集

2024.12.3 みすず野

 異なる作者の作品で構成された本・アンソロジーは、未知の作者と出会う楽しみがある。32人の作品で編まれた『日本の名随筆・書斎』(作品社)は、編者の文芸評論家・谷沢永一さんのわずか2ページの「あとがき」が最も面白いというと叱られるだろうか◆谷沢さんは、自分の持っていないものを語る場合、かなり気楽であるだろうという。読者の同情に訴えればいいから。明治以来の散文技法は、その方角で磨いてきたといい、自分の書斎を語ることは自慢に傾きやすいからかなり難しいと◆よく使われる「手口」は、廊下の片隅や階段の陰の隙間など、利用の苦心を少し哀れっぽく語る。「それについて語ることが、絶望的に困難であるという点でなら、預金通帳のその次は書斎であろうか」◆その手口を踏襲するわけではないが、書斎などという部屋は家になく、子ども部屋の後利用。部屋の全ての壁に沿って置いた自作の本棚に本をぎゅうぎゅう詰め込み、レコードやCDをラックや床に置き、古いステレオや暖房器具の合間にぎりぎり机を配置している。谷沢さんはいう。「つまるところ、書斎は、主の体型に即した穴蔵なのである」