伝統品種のブドウ・ナイヤガラとコンコードの生産減 ワインの原料不足懸念も

130年以上続く塩尻市のブドウ栽培で、伝統品種として市民や消費者に親しまれてきたナイヤガラとコンコードが近年、生産減少傾向となっている。シャインマスカットをはじめとする高単価の生食用ブドウへの切り替え、高温多雨で栽培しづらくなったことなど、さまざまな事情がある。特産の塩尻ワインにとっても、原料不足などの影響が出てきている。
市の統計によると、令和4年の加工用ブドウの市内取扱量は、平成29(2017)年と比べてナイヤガラが36・4%減の約409トン、コンコードが28・6%減の931トン。JA松本ハイランド園芸指導センター塩尻によると、生食用も含め生産者が減っている。
「昔は街にナイヤガラの甘い香りがあふれていたが、今はほとんどない」。「五一わいん」ブランドを展開する林農園(宗賀)の林修一社長は、郷愁とともに語る。契約農家から両品種を仕入れているが、後継者不足で農家が減り、比較的若い農家も「もうかる」品種へ切り替える。両品種の確保がますます困難になると「作れなくなる商品も出てくるかもしれない」と話す。
「アルプスワイン」ブランドのアルプス(塩尻町)も同様だ。矢ケ崎学社長によると、20~30年前は両品種の流通量は「過剰なほど」で、ほかのワイナリーが引き受けられない分を、頼まれてジュース用に引き受けたこともあった。現在では、ナイヤガラで10年前の半分程度の確保量に落ち込んでいる。
両品種のワインは飲みやすい味わいで、販売価格も比較的リーズナブルなため、初心者でも親しみやすい商品が多い。一方、取引単価は低い。林社長は「ワインの価格を上げてブドウの単価に上乗せできればいいが、消費者が離れてしまう」と苦しい胸の内を話す。
同市のブドウ栽培は明治23(1890)年、豊島理喜治がナイヤガラ、コンコードを含む3000本の苗を植えたことに端を発する。ワイナリー、行政とも、市のブドウ栽培史や地域ブランドにおける両品種の重要性を認識し、その価値を再発信していく方策を模索する。
林社長は、重要な伝統的農林水産業を営む地域を農林水産大臣が認める「日本農業遺産」に、塩尻地域として認定を受け、シンボルとして両品種の価値を広める、というアイデアを語る。百瀬敬市長は両品種の衰退に「危機感を持っている」とし、「ワイナリーなどと連携し、後継者育成や栽培面などで生産者を支援していきたい」と話す。
【メモ】ナイヤガラとコンコード ともに北米原産で、香りの良さや甘さ、果実味が特徴。ワインだとナイヤガラは白、コンコードは赤で、2品種ともジュースにも加工される。