連載・特集

2024.10.18 みすず野

 少しずつ明るくなっていく夜明けの空の状態を「薄明」というと気象庁予報官などを務めた気象予報士の平沼洋司さんは『新編空を見る』(ちくま文庫)で語る。空の写真家の武田康男さんが撮影した「薄明」の写真には「乾燥してよく晴れた日、日の出40~50分くらい前の夜明けの色彩がとても美しい」というキャプションが付く◆学校で学んだ『万葉集』にある柿本人麻呂の有名な和歌「東の野に炎の立つ見えてかへり見すれば月傾きぬ」の「炎」には、「薄明」の時間帯と「陽炎」の二つの意味があり、この歌は薄明の時間帯の意味だという◆朝日村出身の歌手、俳優で諏訪郡富士見町在住の上條恒彦さんが、小室等さん率いるフォークグループ・六文銭とともに歌い、昭和46(1971)年の第2回世界歌謡祭でグランプリを受賞した「出発の歌―失われた時を求めて―」は、六文銭のメンバー・及川恒平さんが作詞した◆及川さんが作詞・作曲した「引き潮」の2番の歌詞には「かぎろい 花の雨 春はまためぐり来る」とある。この「かぎろい」は薄明だろうか、それとも陽炎だろうか。あまり用いられない言葉に引き付けられる。