連載・特集

2024.9.22 みすず野

 昭和のヒット曲「よこはま・たそがれ」の作詞や直木賞作家として知られ、平成26(2014)年に鬼籍に入った山口洋子さん=享年77。山口さんがオーナーの喫茶店で大学時代、アルバイトをしていた。東京・麻布にあり、著名人もよく来た◆プロ野球の選手や監督として活躍した東尾修さんが、ランチ時に他の客に交じって、入店待ちの列に並んでいたことがあった。列にいることに気づいた店長が慌てて"特別席"を設けた。山口さんに伝えにいくと、店にすぐ来て「トンビ(東尾さんのニックネーム)元気だったか」。旧知の東尾さんと談笑していた姿を思い出す◆気さくな山口さんはアルバイトの筆者にも気軽に声をかけてくれた。「腹はすいてないかい。遠慮せずに店長に言うんだよ」。優しくてきっぷがよかった◆山口さんが作家活動を始めて、出版社へあいさつ回りをした際に、応対のひどい社があったことを聞いた。直木賞を受けて大手ほぼ全社から執筆依頼が来たが、くだんの出版社から著書が出ることはなかった。一社員の態度が会社に損失を与えたのだ。社会人になる前、仕事に当たる心構えを教えられた話だった。