連載・特集

2024.9.14 みすず野

 水面から天を突くように何本も並ぶ、立ち枯れた白い木々が、神秘的な景色をつくり出す。周囲は木曽自慢の緑濃いヒノキで覆われ美しさを一層引きたてる。王滝村の自然湖だ◆心を洗われるような景観は、40年前の昭和59(1984)年9月14日に発生した県西部地震によってできた。マグニチュード6・8の直下型地震の大きな振動で、御嶽山の一部が崩れ、大量の土砂が王滝川に流れ込み、支流の濁沢川より下流の谷を埋め立てて、自然湖が誕生したのだ。王滝川を埋めた土石流は延長約3・5キロ、厚さ20~50メートルといわれる◆同地震では、死者・行方不明者29人、負傷者10人を出した。過日の弊紙に、地元の小学生と高齢者が、犠牲者を悼んで慰霊碑を清掃したとの記事が載っていた。貴い人命が失われていることを知ると、自然湖に罪はないが、美しいだけとは見られない◆川がせき止められてできたと聞くと、松本市の上高地の大正池を思い出す。こちらは誕生から100年以上が経過し、立ち枯れの木々は倒れるなどで多くが失われた。自然湖も同じ道をたどるのだろうが、今の美観とともに被災の記憶を次代へと語り継ぎたい。