連載・特集

2024.8.9 みすず野

 沖縄県出身の詩人・山ノ口貘 (1903~63)は「鮪に鰯」という作品を残した。短い詩だが、紙幅がないので途中から紹介する◆「亭主も女房も互に鮪なのであって/地球の上はみんな鮪なのだ/鮪は原爆を憎み/水爆にはまた脅かされて/腹立ちまぎれに現代を生きているのだ/ある日ぼくは食膳をのぞいて/ビキニの灰をかぶっていると言った/女房は箸を逆さに持ちかえると/焦げた鰯のその頭をこづいて/火鉢の灰だとつぶやいたのだ」(『山ノ口貘詩集』岩波文庫)◆「ビキニ―」は、昭和29(1954)年に、米国がマーシャル諸島ビキニ環礁で行った核実験を指す。同書の解説で、同郷の詩人・高良勉さんは、文明批判のテーマが成功している例として挙げ「核の問題を日々の食生活の一コマに溶けこませユーモアと風刺の効いた作品にまで高められている」と評している◆この詩は、フォークシンガー・高田渡さんが、昭和46(1971)年に発表したアルバム「ごあいさつ」で曲を付けて歌い、若いフォークソングファンにも知られるようになった。発売の年に買ったこのレコードを何度も聴いた。きょう長崎原爆忌。