連載・特集

2024.8.27 みすず野

 ブドウを漢字で書くと「葡萄」となる。この姿形は人気があるようで、音楽のグループ名に使われたり、飲食店の名前の一部に組み込まれたりした例を覚えている。書けといわれてすぐ書ける字ではないかもしれない◆粒の大きな高額なブドウは、県外の親戚に毎年送って喜ばれている。一粒一粒が磨かれた宝石のようで、見続けていても飽きない。こうした味と形を生み出すまでに注がれた人の英知と時間を思う◆これからの時期、ブドウ畑の近くを通ると、甘い香りがする。塩尻支社に勤務して最初の秋、車の窓から入ってくる香りに驚いたことをよく覚えている。こうして季節を知ることが新鮮で、土地の特性とはこういうことかと知った。甘い香りはどこか豊かで、幸福感と重なる気がする◆高価なブドウだけでなく、昔からある小粒の品種もおいしい。こちらは、一人で一房は食べられる。これらのブドウは、運動会や遠足の記憶と結びついている。家の庭に小さなブドウの棚があり、せん定ばさみで房を木から切り離して食べた、袋かけはしなかったから、大した房にはならなかったが、それでも子どものおやつには十分だった。