2024.06.10 みすず野
宋代の詩人・蘇東坡の「岐亭」という詩に「飲湿」という言葉がある。「酒は好きだが口を湿らす程度で、酔っぱらうまでは飲まない」という意味。「私は終日飲んでも5合は過ぎない」とも言っている。蘇東坡の時代の5合というのは、いまの2合余りだ。これは『中華飲酒詩選』(角川ソフィア文庫)にある◆著者の中国文学者・青木正児(1887~1964)の酒量を四男で中国文化史学者の中村喬さんは、文庫の解説「父青木正児のことなど」で、蘇東坡の酒量と合うという。無類の酒好きだったが晩年は「毎日ほんのわずか晩酌するだけであった」と語る◆同書は陶淵明、李白、白楽天の詩を中心に、周代から唐代の酒にまつわる漢詩を収め、原文、直訳、意訳を紹介している。中国では古くから5色の酒が造られ、その色はともにかびの作用だと説く◆「私の著書は古くさくて、黴が生えているので今の若い人には向かないらしい」と序文で嘆いてみせる。「しかし黴というものは吾々酒徒に取っては大切なもので、黴がなければ酒は出来ない」と。好む酒の色によって、それにあった詩を挙げている。色に合った詩を誦せられよと。