連載・特集

みすず野2024.05.20

 こんなにやわらかい色があるのだろうかと、この季節がくる度に思う。新緑の色だ。川岸で芽吹く柳が先頭で、気付くと周囲の山が少しずつ異なる色で彩られている。新鮮という言葉とは縁がないような年になっても、生き生きとした木々の姿に、何かを始めようという思いが芽生える◆「勉強してみよう、と思い立ったら、まず何をするか、と言えば、新しいノートブックを手に入れることだ」と、作・編曲家の小西康陽さんはいう(『わたくしのビートルズ』朝日新聞出版)◆そうだったな、と思い出す。未使用のノートが何冊かあっても、その度にわざわざ新しいものを買い込んだ。新顔のノートに向かうその気分が何よりも大切のような気がしていた。いつの間にかノートのストックはなくなり、それどころか、使いかけのノートを、別の用途に使い回すようになった◆小西さんは新しいノートを買い求める理由を「これから何を書くのかまったく決まっていない、自由なスペースに人は惹かれるのだ」という。少し厚めの表紙で、けい線の幅が広めのノートを買いに行こう。年をとっても、新しいページに書きたいテーマはいくつもある。