連載・特集

2024.4.9 みすず野

 新学期の授業は、そろそろ本格的に始まるころだろうか。学校と呼ばれる場所に通っていた間、一貫して怠惰な生徒、学生だった。褒められるようなことは何一つなかったが、忘れられない思い出はいくつかある◆そのうちのひとつは、高校に入学して最初の国語の授業。見るからに青年と呼びたくなるような、さっそうとして全く嫌みのない感じの先生が、当時人気作家の一人だった北杜夫さんの『どくとるマンボウ青春期』を朗読した◆ビニールカバーの付いた中央公論社刊の単行本を手に「青春とは、明るい、華やかな、生気に満ちたものであろうか。それとも、もっとうらぶれて、陰鬱な、抑圧されたものであろうか」という書き出しを読み上げた声が今も耳の奥に残る◆先生は東北大学の出身だったから北杜夫さんの後輩になる。朗読後「いま君たちは、青春の入り口に立っているんだよ」といった話をされた。一人の人として向かい合い、語られているようで、少し大人になったような思いを覚えている。担任ではなかったが、卒業後、何度か手紙を書いた。あの先生に出会えたことが、その後の一歩一歩を決めたのだと思っている。

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