地域の話題

飾らぬ人柄 魂の指揮 小澤さんしのぶ

 野球、ラグビー、そば...とりわけメジャーリーグのボストン・レッドソックス。音楽や仲間を大切にするのはもちろん、好きなものを好きとはっきり言える人だった。その中には松本や信州の土地・人も含まれていた。

 サイトウ・キネン・フェスティバル松本(SKF)の12回目となった平成14(2002)年。初めて世界のオザワを取材した。雲の上の存在だと思っていたその人はエネルギッシュで、飾らずとても気さく。東京から自分で愛車を運転して松本入りし、予定時刻よりも1時間以上早く到着してスタッフを慌てさせた年もあった。
 ステージでは髪を振り乱し跳びはねるように指揮し、オフタイムには少年野球チームやフェスを支えるボランティアらと交流。ホテル暮らしは好まず市が借り上げた住宅に滞在し、ひいきのレストランに足を運ぶなど"市民生活"を満喫した。
 日本の地方都市から世界に向けてクラシック音楽を発信する│。クラシック音楽が生まれた西洋に挑戦し続けた東洋人の先駆者として思いを貫き、その思いに触れた市民らが惜しまず協力することで音楽祭の土壌がはぐくまれた。28年のパーティーであいさつに立ち、「松本の人、長野県の人...温かい」と思わず目頭を押さえていた。
 晩年は病気を患い思うように体力が戻らない中でもOMFの舞台、SKOの仲間との演奏にこだわり続けた。最後に交響曲を演奏した28年は、楽章間に指揮台に腰掛け休憩を取りながら全うする異例の公演となった。渾身の指揮にSKOメンバーが前のめりに応える姿が、音楽祭の根底にある「全力の姿勢」を物語っていた。