連載・特集

2024.2.5 みすず野

 NHK大河ドラマ「光る君へ」は、平安時代が舞台だ。この時代の男性貴族は、日の出前数十分に打ち鳴らされる第一の太鼓で起床し、日の出から45分後の第二の太鼓までに朝廷へ出勤する。ここから一日が始まる◆『いちにち、古典』(田中貴子著、岩波新書)にある。朝廷の有力者で大きな権力を持っていた九条右大臣・藤原師輔(908~960)が、朝の理想的なルーティーンを家訓として書き残した文章を紹介。「これが朝廷に出仕する男性貴族の平均的日常であったと思われる」という◆午前11時~午後1時ほどの間に自宅へ帰り朝食を取る。当時は朝、夕2食だから現代人の感覚だとこれが"サラメシ"というわけだ。出勤前にかゆを食べることがあるが、軽食なので食事に数えない。間食は自由だった。そうでなければ激務に耐えられない。帰宅後も、宿直になると再び勤務に戻ることがあった◆著者は「思いのほかの早朝勤務に、いささか驚かれた方もあるのではなかろうか。平安貴族は、タフでなければ生きてゆけないのだ」と説く。出勤する貴族の妻や使用人は、もっと早くから起きていることになる。その苦労を思う。